自分の本を教科書にしている大学教員は印税でお金稼ぎをしているのか?

自分の本を教科書にしている大学教員は印税でお金稼ぎをしているのか?

学生
学生

大学の授業で担当の先生の本が教科書に指定されてて。

教科書代も大変だけど,先生は私達に教科書を買わせてお金稼ぎしてたりするの?🤔

これ,多くの学生が1度は考えたことがあるんじゃないでしょうか。
私も学生時代に思ったことがあります。
教科書代は学生にとっても大きな出費の1つで,「教科書代,高いなぁ」と思いながら買っている学生も多いと思います。
それが担当教員の書いた教科書であれば,「ひょっとして,,,」と考えてしまいますね(笑)

この記事でそんな疑問に答えていきます。
内容はこちら⬇️です。

  • 大学の教科書で印税は入る。
  • 教員はお金稼ぎをしたくて教科書を書いているわけではない。
  • 教員にとってのメリットは,授業での使いやすさと多少の業績。
  • 教科書に関わるのは出版社と教員。
  • 自分のために教科書を買わせる悪い教員も残念ながらゼロではない…

この記事は現役の大学教員としての経験や,教科書を書いたこともある経験に基づいて書いています。

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この記事を最後まで読んでもらえれば,教員が自分で書いた本を教科書にするのがお金目的ではないことが分かってもらえると思います。
また,「こういう教員の本は買っちゃいけないんだ」というのも分かるので,悪い教員から自衛できるようになりますよ。
ぜひ最後まで読んでみてください。

1.大学の教科書にも印税はある

まず,前提として知っておいて欲しいことなのですが,大学教員が自分の書いた本を教科書に指定することもできます。
できますし,実際に指定されているケースも結構あります。
大学の教科書は高校までの教科書と違って,どの本を指定してもOKです。
このあたり,高校までと大学の教科書の違いについてはこちら⬇️の記事をご覧ください。

では,ここから本題に入ります。

学生
学生

私たちが教科書を買ったら,先生に印税が入るの?入らないの?🤔

結論から言えば,

基本的に印税があるので,担当教員に教科書代の一部のお金が入ります。

学生の立場からすれば,教科書代を負担しているのにそのお金の一部が担当教員に流れているとなると,ちょっと嫌な気持ちになるかもしれません。
「私たちを利用して小遣い稼ぎをしているのか💢」と。

ただ,これは「印税が入ればウハウハなんだろう」みたいなイメージが先行してしまっているケースや,
学生に「強制的に買わせようとする」みたいな一部の「悪い奴ら」の例が目立ってしまっているからではないかと思います。

ちなみに,「基本的に」印税がある,といったのは,印税を放棄しているケースなどもあるからです。
たとえば,

  • 印税は不要なので,価格をできるだけ下げてくださいとお願いするケース(実例として知っています。)。
  • 出版補助を受けて発行する場合に,印税を放棄する条件がある場合。

などがあります。
すべての教科書に印税があるわけではありませんが,印税があるのが一般的だと思ってくれて大丈夫です。

2.自分の本の教科書指定はお金が目的ではない

学生
学生

印税が入るならやっぱりお金が目的なんじゃないの?🤔

結論を言えば,違います。

とっても残念ながら,ごくまれにそういう人(お金とか,自分のためだけに教科書指定をする人)もいます…
ただ,基本的にお金目的ではありません。
なぜなら,

  • そもそも印税が安すぎる。
  • それに対して,かかる労力がヤバイ。
  • 業績としても弱い。

といった理由があります。
順番に説明していきます。

①そもそも印税が安すぎる

教科書で入ってくる印税はそもそも少ないです。
それなりに条件のいい出版社でも10%くらいでしょうか。
酷いところは(有名な出版社でも)もっとひどいです。
最初の◯百部は印税無しとか…

と言ってもイメージが湧きづらいでしょうから,ちょっと具体例で考えてみましょう。

・教科書の値段=3,000円
・履修者数=200人
・教科書を購入する割合=50%(購入者数=100人)
・印税=10%
→印税の金額=3,000円×10%×100人=3万円

どうでしょう?
200人と割と多めの履修者がいる科目で,1年間で3万円です。
仮に5年間教科書として使用したとしても,5年間で15万円です。

もちろん,他の大学で使用されたり,ベストセラー的な本になれば別ですが,それは激レアケースなので普通は,,,まぁないですね(笑)

②それに対して,かかる労力がヤバイ

15万円は少なくないじゃないか!と思うかもしれません。
しかし,教科書を書くのにかかる労力というものを考えると「安すぎる」ということが分かってもらえるはずです。

分量は本によって違いますが,200~250ページくらいの本で文字数がざっくり20万字くらいでしょうか。
20万字=400字の原稿用紙500枚分です…
(最近の学生は「原稿用紙」って馴染みがあるんでしょうか…どうなんでしょう?)

この分量を書くために必要な時間を考えると…
1日に2,000字ずつ書いていって100日…
しかも,その内容を書くためにはそれ以前(大学~大学院修士課程~大学院修士課程~就職後)の何年,あるいは10年以上にわたる勉強や研究の時間が必要になるんです。

どうですか?
その結果書き上げた本の印税が,5年で見ても1文字1円以下…
ウェブライターの相場では未経験0.5円くらい,一般的なライター1~3円くらい,上級ライター5円以上,なんて言われているようですから,めちゃめちゃ効率が悪いです。

つまり,お金を稼ごうと思うなら別の方法を考えた方が,明らかに効率がいいということになります。

③業績としても弱い

大学教員は,「研究業績」や「教育業績」が評価基準になります。
研究業績というのは,学術論文や学術書,研究書,専門書ですね。
教育業績には,授業での取り組みなども含まれますが,教科書も教育業績のひとつです(=研究扱いではない)

そして,,,評価の重さとしては,明らかに研究業績>教育業績です。
教育業績にカウントされる教科書は,労力の割に評価もそれほど大きくはないということです。
業績という点からも,教科書というのは効率が良くないんです。

こんな感じで,大学教員にとって教科書を書くというのは,「大変な割に,お金的にも業績的にも効率が悪い」ということが分かってもらえたと思います。

3.大学教員が教科書を書く理由は何か

学生
学生

それならなんで大学の先生は教科書を書くの?🤔

はい,次は当然こういう疑問が湧いてきますよね。
ということで,大学教員が教科書を書く理由について説明していきます。
考えられる理由としては,

  • 学生にとって役に立つ,分かりやすい教科書を作りたい!の積極的パターン。
  • ちょうどいい教科書が無いから自分で書くしかないか,の消極的パターン。
  • 自分で書いた本が使いやすい。
  • 教科書にまとめると,資料の準備がラクになる。
  • 研究業績には劣るものの,業績評価の対象にはなる。
  • 共同執筆を依頼される。
  • 出版社から依頼される。

といったあたりでしょうか。
主なものは①か②で,それ以外は「おまけ」くらいのイメージです。
1つずつ見ていきます。

①分かりやすい教科書を作る

大学の教員の専門分野は結構細かく分かれるので,その分野に「いい教科書」,「使いやすい教科書」が無かったりします。
もしくは,あっても内容が古くなってしまっているなんてこともあります。
説明の仕方,扱っている内容など,「授業で使うならもっとこうなっていればいいのに」というところはたくさんあります。
もちろん,それを自分で作成した資料などで補うこともできますが,良い教科書を自分で作ろう!と思えば,教科書を書くことになります。

②自分で書くしかないのパターン

①と同じような状況になった時に,「まぁ,自分で書くしかないか…」となって書くこともあります。

基本的には①か②がメインになります。
使いやすくて,比較的新しくて,内容的にも自分の考えと近い本があれば,わざわざ書く必要はないんですよね。

③自分で書いた本が使いやすい

大学の教科書は,高校までの教科書と違って教える内容が決まっているわけではありません。
そして,「定説」をただ教えるだけでもありません。
研究者によって考え方が様々だったり,説明の方法が違ったり,と,教科書ごとに書いた人の個性が強く出ます。

これも①と同じ状況ですが,そうすると,他の人が書いた本は「使いづらい」,「個々の考え方は自分とは違うんだよなぁ」,といったことがよくあります。
自分のスタンスで自分の本を書いた方が使いやすい,となるので,教科書を執筆する理由の1つになります。

④資料の準備がラクになる

レジュメや資料の配布,アップロードで対応すると,毎回これをやらなくてはいけません。
学生も,毎回必要なものをダウンロードして,必要であれば印刷して,,,となります。
これに対して,授業で扱う内容をあらかじめ教科書にキレイにまとめてしまえば,「教科書1冊あればいい状態」にできるので,教員も学生も手間を減らせてラクになります。
(学生にとってはお金がかかってしまいますが…)

⑤多少は業績になる

論文などの研究業績には劣りますが,多少の業績評価にはなります。
特に,別の大学に移りたい(今よりいい条件の大学に移りたい,地元に戻りたい,出身校に戻りたいなど)という希望がある場合には,業績が大事になります。
教育業績が全く無いよりもある方が良いので,効率はあまり良くないですが教科書を書く理由の1つにはなります。
ただし,業績の効率としては論文を書く方が早いし効率もいいので,積極的な理由にはなりません。

⑥共同執筆を依頼される

教科書は一人で1冊を書く場合(単著)もあれば,複数人合同で1冊を書く場合(共著)もあります。
共同執筆を依頼されると,その教科書の一部を担当することになります。
共同執筆の場合は,1人当たりの負担は1人で全て書くのに比べて減りますし,正直なかなか断りづらいこともあったりして,引き受けることもあります。

⑦出版社から依頼される

きっかけの1つに過ぎませんが,依頼されたのを機に執筆を本格的に考えるというパターンは多いです。
執筆するかどうかは,①~⑤を念頭に考えるという感じです。

主に①,②ですが,これらの理由がいくつか組み合わさって,教科書を書くという恐ろしく大変な作業をする決意をすることになるのが一般的だと思います。

参考:無名の教員が書いた教科書なんて,という教員

ミクロ経済学などの分野では特にそうなんですが,既にベストセラーになっているような教科書があるのに,わざわざ無名の教員が書いた本なんて使ってどうするんだ,ということを,学生相手に言っていたらしいという同僚の先生がいました。


これは確かにそういう一面もあるのかもしれませんが,私としては,

「決まった教科書の内容をただ教えるなら,予備校の講師みたいに教える専門の人がやればいい話で,研究者である大学教員が授業をする意味がなくね?」

と思います。
この人の真意は分かりませんが,私とは違う考えを持つ人もいますので,どちらも参考程度に見てもらえればと思います。

4.教科書を書きたい,書かせたいのは誰か?

さて,ここまで読んでもらえると大体予想できるのではないかと思いますが,教科書を書かせたいのは,やっぱり「出版社」なんですよね。
大学教員にとっては,教科書が無くてもちょっと不便とか,ちょっと面倒とかというのはあったとしても,致命的に困ることはありません。

これに対して出版社の場合は,売る本がない,本が売れないというのは致命的なんです。
電子書籍がどんどん出るようになったりして,出版業界も厳しい状態にあります。
そんな中で大学の教科書というのは,毎年同じ教員が一定数の履修者のいる授業を受け持ちますから,数は多くないものの,ある程度安定して売れるんです。

こうした事情と,先ほど紹介した教科書を書く理由を持った教員の利害?が一致して,教科書が執筆されることになります。

5.自分のためだけに「教科書」を買わせる悪い教員もいる

教員が教科書を書く主な理由はこれまで解説してきたとおりです。
ただ,本当に数は少ないですが,残念ながら教員の中には「悪い奴」がいるんですよ…
それは,自分の専門書を「教科書」として指定して学生に買わせることで,お金を掛けずに専門書を出版しようとする奴です。

先ほども書いたように,出版業界も厳しいので,売れるかどうかも分からない専門書の出版に積極的になってくれる出版社は少ないです。
要するに,本(専門書)を出版するのにお金がかかります。

1冊の専門書を出そうとすれば,そうですね,100万円以上は必要でしょう。
個人で用意するのは大変なので,大学の出版補助のような制度を利用するとか,科研費の出版助成(研究成果公開促進費,学術図書)を申請して審査を通過して採用などの方法を採ることが多くなります。

しかし,こうしたものが利用できなければ,「自費出版」ということになります…
そこで,,,

悪い大学教員
悪い大学教員

専門書なんだけど,自分の授業で教科書に指定すれば数が捌けますので,自己負担なしで(=出版社負担で)出してくれないか。

みたいなことを考える教員もいます。
最悪ですよね,最悪なんですけど,いるんですよ…本当に数は少ないですが。

実際私も,今の大学に移ってきたときに,

「君のその本を教科書に指定しちゃえば在庫捌けさせられるよ?私はそうしたし。そうすれば次の本を書く時も引き受けてくれやすくなるだろうし。」

とか言われました…
ビックリしました…なんだコイツ正気か??と思いました。
その私の本は専門書だったので,教科書になんて指定するわけがありません。
(ちなみにその本は,大学の出版補助をもらって出版したもので印税もありません。
お金の負担はゼロではなかったですが,とても少なくて済みました。ありがたや🙏)

専門書を教科書にすることが絶対にダメだとは言いませんが,その専門的な内容を本当に授業で扱うのか,扱えるのか,偏りすぎではないか,などなど,いろいろな疑問が出てきます。
「教科書」として書かれたものではなく,「専門書」を教科書に指定している場合はほぼ確定で地雷なので,買わない方がいいです…
その人はもう定年退職しましたが,,,こういう大学教員は早く絶滅して欲しいものです…

ちなみに,テキストを購入すべきかどうか,いつ購入すべきかについては,こちら⬇の記事もご覧ください。

まとめ

以上,大学教員が教科書の印税でお金稼ぎをしているのか? なぜ教科書を書くのか? について解説してきました。
簡単にまとめておきましょう。

  • 大学の教科書で印税は入るが金額は少ない。
  • 印税は作業量に対して割に合わない。
  • それでも教科書を書く理由として多いのは次のもの。
    ・分かりやすい教科書を作る。
    ・ちょうど良い本が無いから自分で使いやすい教科書を書く。
    ・授業準備がラクになって,多少の業績にもなる。
  • 教科書を書かせたいのは出版社であることが多い。

です。
学生にとって教科書代は負担になりますし,そのお金の一部が教員に印税として入っていると思うといい気持ちはしないかもしれません。
ただ,教員はお金のために教科書を書いているわけではないし,業績などは自分のためとはいえ,意外と割に合わない作業なんだと知ってもらえるとありがたいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

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その他適宜追加します。

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