大学の教科書は高校までの教科書と同じようなものなの?🤔
大学に入学したばかりの1年生にとっては,「教科書」という言葉を聞くと高校までの「教科書」を思い浮かべますよね。
ただ,大学での教科書というのは,高校までの教科書とはかなり違います。
この記事では,こちらの内容⬇️から,大学の教科書と高校までの教科書の違いを解説していきます。
- 教科書の位置づけ
- 教科書の種類の多さ
- 教科書に書かれている内容の違い
この記事は,現役大学教員として大学で授業をしている経験や感覚に基づいて書いています。
この記事を最後まで読んでもらえれば,大学の教科書というものが高校までの教科書とかなり違うものだということが分かります。
また,大学(大学卒業後も)での「勉強」への向き合い方のヒントにもなりますので,ぜひ最後まで読んでみてください。
1.大学では教科書がないことも多い
高校までの教科書と大学の教科書の大きな違いの1つ目は,教科書の位置づけです。
もう少し分かりやすく言えば,「教科書が必ずあるかどうか」ということで,大学の場合,
教科書がないことがある
ということを知っておいてください。
教科書がないってどういうこと?🤔
と思うかもしれませんが,大学では「教科書がない(指定されていない,使用しない)」科目も結構多いです。
小中学校と高校を振り返ってみると,教科書はこのような感じ⬇になっていたと思います。
- 中学まで→教科ごとに教科書が「配られる」(義務教育,自己負担無し)。
- 高校→事前に教科ごと(全教科)に「指定された教科書」を購入する。
中学までであっても,私立の学校の場合には「検定外教科書」(国から配られる教科書以外の教科書,詳しくは後ほど説明します。)を使うこともあると思います。
その場合には有償で購入ということになりますが,いずれにしても,基本的にすべての教科で教科書があるということは同じです。
そして,授業は基本的に教科書に従って(順番などは変わったりすることもありますが)進んでいくことになります。
これに対して大学の場合は,「教科書がない(指定されていない,使用しない)」科目があります。
その場合には,教員が作成した資料(パワーポイントで作成したスライド資料やレジュメ,本から抜粋したものなど様々)で講義を行うことが多いです。
そして,最近ではこれらの資料は印刷して配布されるのではなく,各大学の学習支援システム,eラーニングシステム(具体的な名称は大学によって異なります)にアップロードされることが多くなっています。
(もちろん,印刷物として配布される場合もあります。)
さらに,教科書が指定されている科目であっても,必ずしも教科書のとおりに進められるとは限りません。
講義の中でどのくらい教科書を使うかは担当者によってバラバラなんだよね…
教科書指定されている科目での講義の進め方のパターンをいくつか考えてみると,このような感じ⬇になります。
- ほぼ教科書に沿って進めるパターン(情報処理のようなの演習系科目など)。
- 教科書がベースで適宜追加資料,追加説明をするパターン。
- 配布資料などがベースで,教科書は補助的(復習,整理など)に使用するパターン。
- 教科書は指定されるもののほとんど使用されないパターン。
④なんて教科書を買う意味ないじゃん!!
④のようなケースはほとんどないと思いますが,教科書を買えばお金がかかります。
③,④あたりのパターンは,教科書が無くてもあまり困らないことも多いので,「教科書を買うべきかどうか」は学生にとって大きな問題でもあります。
この「教科書を買うかどうか問題」について気になる方は,こちら⬇の記事をご覧ください。
いずれにしても,大学では教科書が必ず指定されるものではないですし,その教科書に沿って講義が進んでいくとは限らない,という点を知ってもらえたらOKです。
2.大学の教科書は同じ科目でも全然違う
高校までの教科書と大学の教科書の違い2つ目は,教科書の種類の多さです。
大学の場合,
教科書の種類が非常に多い
という状況です。
高校までの教科書は,多くの場合「教科書検定」に合格した教科書が使用されます。
教科書検定制度は,ざっくりといえば,作成された本の内容等を国(文部科学省)が確認して「合格」とされたものを「教科書」として使用することが認められるという制度です。
1.教科書検定の意義
「我が国では、学校教育法により、小・中・高等学校等の教科書について教科書検定制度が採用されている。教科書の検定とは、民間で著作・編集された図書について、文部科学大臣が教科書として適切か否かを審査し、これに合格したものを教科書として使用することを認めることである。
教科書に対する国の関与の在り方は、国によって様々であるが、教科書検定制度は、教科書の著作・編集を民間に委ねることにより、著作者の創意工夫に期待するとともに、検定を行うことにより、適切な教科書を確保することをねらいとして設けられているものである。」
2.教科書検定の必要性
「小・中・高等学校の学校教育においては、国民の教育を受ける権利を実質的に保障するため、全国的な教育水準の維持向上、教育の機会均等の保障、適正な教育内容の維持、教育の中立性の確保などが要請されている。文部科学省においては、このような要請にこたえるため、小・中・高等学校等の教育課程の基準として学習指導要領を定めるとともに、教科の主たる教材として重要な役割を果たしている教科書について検定を実施している。」
出所:文部科学省HP「教科書検定制度について」
(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/tosho/003/gijiroku/08052214/001.htm)
文科省HP(リンクはこちら)の「教科書検定結果」を見ると,年によってバラツキはあるものの,中学校,高校合わせて毎年200点程度の図書が検定されていることが分かります。
出所:文部科学省HP「教科書検定結果」
(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/kentei/kekka.htm)
高校までは教科書検定に合格した教科書が使用されるのが基本なので,教科書の種類は少なくなります。
たとえば,高校の教科書で言えば,「東京書籍」,「第一学習社」,「数研出版」,「実教出版」,「清水書院」,「山川出版社」といったところが発行する教科書がほとんどでしょう。
これに対して大学の場合,教科書検定といったものはもちろんありません。
担当教員が「教科書として指定」するわけですから,あえて極端な言い方をすれば,「どんな本でもいい」わけです。
担当教員が使いやすいもの,担当教員の考えに近いもの(あるいは逆のもの,複数の考え方が記載されているもの)など,本当に種類が多いです。
たとえば,アマゾンで「ミクロ経済学」で検索してみてください。
「検索結果1,000以上のうち」といった感じで無数の本がヒットします。
ですから,たとえば同じ大学の同じ科目であっても担当者によって教科書が違うこともあり得ますし,同じ教員であっても年によって教科書が違うこともあるわけですね。
あとは,担当教員自身が書いた本が教科書として指定されていることもあります。
(教員自身が書いた本を教科書に指定していると,大学教員が学生に教科書を買わせて,印税で小遣い稼ぎをしてるんじゃないか?なんて思うかもしれません。このあたりは実際にどうなのか?という点について別記事にしますので少々お待ちください。)
大学の教科書は,担当教員によって様々で本当に種類が多い,ということになります。
これは次に説明するように,色々な見方を知ることができるという点ではメリットですが,一方で「本のクオリティに多少のばらつきがある」というデメリットも含んでしまうことにもなります。
3.大学の教科書は本によって内容が違うこともある
高校までの教科書と大学の教科書の大きな違いの3つ目は,大学の場合,
教科書によって内容が「全然違う可能性がある」
ということです。
それって教科書に書いてあるか書いてないかの違いってこと?
それとも同じものの説明とか理解が全然違うってこと?🤔
その両方だね!
高校までの教科書は先ほど説明したように,基本的に「教科書検定」に合格した教科書です。
そして,高校までは教える内容もかなり細かく指定されています。
具体的には,国(文科省)が定める「学習指導要領」で「何を教えるのか」を指定しているわけです。
高校までの教科書はこの学習指導要領に則って作られているわけですから,「どの教科書であっても基本的に書いてあることは大体同じ」ということになります。
そして,その教科書に書かれていることは必然的に,「基本的にはこういうことだよね」という「一定の合意が取れている(一般的には正しいとされている)こと」になります。
先ほど「一般的には正しいとされていること」という怪しげな書き方をしましたが,高校までの教科書に載っていることもそれが「正しいとは限りません」。
歴史の教科書で昔は正しいとされていたことが今は変わった(たとえば私が中学生の時,鎌倉幕府の成立は1192年と教わりましたが,今は変わっています)というパターンもありますが,実はもっともっと深刻なものもあります。
たとえば,令和4年度の「政治・経済」の共通テスト本試験,第2問,問5で「信用創造」の問題が出題されました。
この問題と教科書の「信用創造」(あるいは,同じ年の「現代社会」の信用創造の問題)を見比べてみると,,,面白いことが分かります。
ちなみに,この「政治・経済」の問題は,はっきり言ってしまえば「教科書に書いてあること間違ってますよ」という問題なのですが(笑),問題の中に正答を導くために必要な情報が書かれていて,ちゃんと問題として成立していますのでその点はご安心ください。
「共通テスト,信用創造」で検索するだけでヒットしますので,興味がある人は調べてみてください。
これに対して大学の教科書の場合,検定などはありません。
ですから,教科書によって「扱っている内容」,「説明のしかた」,「ある事柄(理論など)に対する考え方」などが様々です。
さらにいえば,そもそも大学では「答えが出ていないことを扱う」ことも多いですから,「これが正しい答えです。覚えましょう。」という内容はむしろ少ないと思ってください。
(1年次科目など入門的な科目では基本的な部分を押さえるということもありますが,その初歩的な理論の部分でも「これが唯一正しい」ということはないと思ってくれてよいです。)
というより,そもそも「これが正しい」とコンセンサスが取れていることの方が少ないわけですし,正解が分からない課題に取り組むことの方が圧倒的に多くなりますし,それに対処していく力の方がずっと大切です。
そいういう意味では,大学の教科書のバリエーションが多いというのは,「色々な見方,考え方を学ぶ」という点でとても良いことです。
とはいえ,このメリットは「批判的に考える力」がないとかなり危険なデメリットにもなります。
本に書いてあるんだから正しいんでしょ?
先生が言っているんだから間違っているわけがないよね!
といった考え方はとても危険な考え方で,言い方は悪いですが「思考停止」の状態です。
こういう状態で内容が全く違う本に触れたりすると,かえって毒になってしまいます。
◯◯先生と□□先生の言ってることが全然違う!
どっちが正しいんだ!?
みたいなことになってしまいます。
大学生としては,
教員の言っていることも本に書いてあることも間違っているかもしれない,見つけてやるぞ!
くらいの気持ちでいるのが良いですね!
4.大学の教科書と参考書(参考文献)の違い
シラバスを見たら「参考書」とか「参考文献」っていうのもあったんだけど,教科書とどう違うの?🤔
参考書(参考文献)というのは,文字通りではありますが,「講義の内容に関連する本で参考に出来る本」という感じです。
そうした内容の「情報提供を教員がしている」といった認識で良いです。
大学の参考文献は,「興味があれば見てみてね。分からないところがあったら参考にしてみてね。」といった位置づけの本です。
受験勉強の際に多くの生徒が用いた「学習参考書」とはかなり違うものになりますね。
繰り返しですが,高校までの教科書とは違って,本によって書いてある内容が全然違ったりしますから,見てみると面白いと思います。
ちなみに,参考文献については基本的に購入の必要はありません。
興味があったら買ってもいいですし,図書館などで借りて読んでみてもいいでしょう。
まとめ
以上,大学の教科書と高校までの教科書の違いについて解説してきました。
簡単にまとめておきましょう。
- 大学では必ずしも教科書指定がされているとは限らない。
(教科書を使用しない科目もある。) - 大学の教科書には検定もなく,担当教員が決めるので多種多様。
- 大学の教科書は書かれている内容も多様。
- 大学では「色々な考え方」を知ったり,「答えの分からない問題に取り組むこと」が大切。
- 参考書は基本的に購入の必要はないが,興味があれば見てみるとよい。
大学の教科書は,高校までの教科書とは別物だと理解しておくのが良いと思います。
色々なことが書いてあったり,同じことでも書き方が全然違っていたり,面白いものです。
これを「面白い」と捉えるか,そうでないかによって評価は変わってくるかもしれませんが,ぜひ「面白い」と感じてもらえるといいなと思います。
その他適宜追加します。